2014年08月23日

5. アルツハイマー型認知症の症候学

アルツハイマー型認知症は「老人斑」や「神経原線維変化」が見られる神経変性疾患で、他の病型との合併例を合わせると、認知症の6割近くを占める病型です。

βアミロイド蛋白や5_1.pngタウ蛋白が異常に蓄積して神経細胞の変性が起こります。特に「海馬」周辺から変性が進行するのが特徴です。右のMRI断層写真では、アルツハイマー型認知症の症例で海馬(赤矢印)周囲の脳萎縮が顕著です。







右の写真は、5_2.png「老人斑」の顕微鏡写真です。特殊な染色法で、神経細胞の近傍に染みのような老人斑が散在している様子が観察されます。脳内にもともと存在する「βアミロイド蛋白」が異常に沈着してできています。








右の写真は、5_3.png「神経原線維変化(NFT)」の顕微鏡写真です。神経細胞の中に、異常な構造に変化した「タウ蛋白」が封入体として蓄積し、神経細胞が機能異常をきたして、脱落していきます。










アルツハイマー型認知症は、もの忘れと見当識障害が目立つ傾向があり、会話能力や社会性は比較的保たれて世間様の目をとても気にするので、「取り繕い」の態度が見られるのが特徴です。記憶障害を取り繕って話を合わせようとして、「作話」につながることがあります。置き忘れから、盗られたに違いないという思いこみにつながり、「もの盗られ妄想」や「被害妄想」に発展することもあります。下の図のように、海馬・側頭葉から頭頂葉にかけての機能障害が中心となりますが、どの部位の障害がどのような症状につながるのか、一つ一つ確認してみましょう。

海馬5_4.png
•記憶障害:新しい事柄を覚え込むこと(記銘、input)が困難。エピソード記憶の障害が特徴的で、出来事の細部だけでなく、どこで何をした、という出来事そのものを忘れてしまう。記銘そのものが障害されているので、ヒントを与えられても思い出せないことが多い。
昔の事柄を思い出すこと(想起、output)は比較的保たれるので、昔話には花が咲く。

•見当識障害:通常、「日時」「場所」「人物」の順で障害される。記憶のつながりが障害されるので、状況判断の連続性が妨げられる。例えば、「昨日息子家族が遊びに来てくれたから、仕事が休みだったということは日曜日で、なので今日は月曜日」などと記憶のつながりで今日の日付や曜日といった状況を把握するのに、記憶が曖昧になると、そもそも昨日息子家族が遊びに来てくれたという手がかりすら分からなくなるので、今日が何曜日という状況判断ができなくなる。


側頭葉
•健忘失語:言葉の記憶が即座に出てこなくなって、「あれ」「それ」といった指示代名詞が多くなる。


頭頂葉
•Gerstmann症候群(失算、失書、手指失認、左右失認):計算が苦手、字を書けない、指された指が分からない、左右が分からない。

•視空間認知障害:ものの形、空間的配置の認知力が低下して、時計の絵が描けない(clock-drawing test)、機械のスイッチ類の操作が困難になる。テレビやエアコンのリモコンを操作できなくなり、使い慣れたはずの携帯電話の操作に戸惑うなど、生活に支障が出てくる。「整理する」ことが苦手になるので、ものの置き忘れが更に増える。

•着衣失行:ボタンのかけ外し、袖を通すなど着脱衣が障害される。空間的認知障害が背景にあると考えられる。

•道順障害:方向感覚や目印の識別が困難になり道に迷いやすい。場所の見当識障害と相まって徘徊につながる。
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6. 脳血管性認知症の症候学

動脈硬化性変化に伴い、脳梗塞や脳出血などにより神経組織が障害されて発症します。認知症の中で2番目に多い病型で、高血圧や糖尿病など生活習慣病と関連して、男性に多い傾向があります。

右図は6.pngMRI断層写真と剖検脳の割面で、脳梗塞の部位を赤線、赤矢印で示しています。剖検脳の実線部分は、陳旧性脳梗塞で一部空洞を形成しており、破線部分は、比較的新しい梗塞巣を示しています。







このタイプの認知症は、脳梗塞の再発などにより進行していくため、「階段状の悪化」が認められます。脳血管性病変の部位により多彩な症状を示し、限局的な症状を呈することも多いため、「まだら認知症」とも言われます。
一方で、脳梗塞の部位だけでなく、脳全体に循環不全状態におちいるため、共通してぼんやり、不活発、注意集中障害を来します。もの忘れは記銘力が比較的保たれ、「想起」が困難となるパターンで、ヒントを出すと思い出す、時間をかけると思い出すことがあるので慌てさせない、急かさないことが大切です。意識レベルの変動があり、夢うつつの幻覚妄想状態を呈することがあり、これをせん妄と言います。また、感情のコントロールが十分にできなくなり、「情動失禁」が見られることがあります。
一般的に前頭葉の血流低下が目立つことが多く、意欲低下のほか、麻痺や運動調節機能障害、失語、嚥下障害などきたして介護上の問題となることが多いのも特徴です。

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7. レビー小体型認知症の症候学

「レビー小体」が出現する神経変性疾患で、認知症の中で3番目に多い病型ですが、アルツハイマー型認知症の病理変化を併存することが多い傾向があります。病初期には、もの忘れがあまり目立たないこともあります。

レビー小体型認知症では、7_1.png後頭葉から頭頂葉にかけての機能が低下することが特徴です。右図の脳血流シンチでは、対応する部位の血流低下(青〜緑色)を認めます。






右の写真は、7_2.png「レビー小体」の顕微鏡写真です。パーキンソン病でみられる変化と同じものですが、レビー小体型認知症では、この病変が大脳皮質全体に広がります。「αシヌクレイン」という蛋白が、神経細胞の中に異常に凝集して形成されます。






側頭葉から7_3.png頭頂葉の障害がみられるアルツハイマー型認知症に比べ、レビー小体型認知症では機能低下が後頭葉にまで及ぶので、視覚処理にまつわる症状が著明に現れるのが特徴です。パーキンソン病と同じく、脳幹の病理変化も顕著にみられます。右図のような病変の広がりから、以下のような症候が現れます。



後頭葉〜側頭頭頂葉
•幻視、錯視:いないはずの人や動物が見える(幻視)、カーテンや家具の模様が人の顔や虫のように見える(錯視)。かなりリアルで繰り返されるため、不安感をあおられることが多い。

•視空間認知障害:アルツハイマー型認知症よりも相対的に高度に障害される。ものがゆがんで見える、椅子にまっすぐ座れないということもある。着衣失行も見られる。


脳幹・自律神経
•パーキンソン症状:身体のふるえ、こわばり、歩行障害(小刻み歩行)。動きが鈍くなり、転倒しやすい。

•症状の変動:はっきりと覚醒して真っ当な受け答えをする時もあれば、ぼんやりして注意力が低下して、夢うつつの状態になる時もある。意識レベルの変動が背景にあると考えられる。睡眠リズムにも影響が現れ、睡眠時行動異常(寝ぼけ、夢遊病)をきたすことがある。

•自律神経症状:便秘、失神発作が見られることがある。
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8. 前頭側頭型認知症の症候学

頻度は多くはありませんが、人格変化や行動異常で介護の手間となることが多い病型です。世間様の目を気にすることなく、もはや取り繕うこともせず、「我が道を行く」態度が見られます。病理変化の広がりの違いにより、失語症を主症状とするタイプもあります。

側頭葉から前頭葉にかけて、8_1.png限局性の脳萎縮を認めます。左右差が見られることも多く、脳萎縮が顕著な部位(右図赤線)と比較的保たれている部位が隣り合わせに認められ、その境界が明瞭であることもしばしばです。









右の写真は、8_2.png前頭側頭型認知症の一つに分類されるPick病の病理変化で、ピック小体と呼ばれる封入体が多数認められます。神経細胞の中にタウ蛋白が異常に蓄積して形成されたものです。タウ蛋白だけでなく、TDP43やFUSといった他の蛋白の異常によって病気が起こることもあります。









前頭側頭型認知症は、8_3.png右図のように、まさに前頭葉と側頭葉の障害による症候が見られます。



前頭葉・辺縁系
•人格変化:人格が軽薄化して「我が道を行く」ため、反社会的行動をとることがある。本人に悪気はないので対処が難しい。
「考え無精」でその場限りのおざなりな言動に終始する。

•常同行動:融通が利かなくなって、同じ行動パターンを繰り返す。「時刻表」通りの生活パターンで柔軟性がない。目的や状況に応じた注意の切換がうまくいかない状態と考えられる。物事の手順を順序立てて実行することが苦手になる。逆にちょっとした刺激で注意がそれて、注意力散漫にもなりやすい。いつも同じところをグルグル歩き回る時、徘徊ではなく「周徊」という。

•不活発:意欲低下、無関心、抑うつなど精神活動の不活発化を認める。

•食行動異常:食べ物の好みが変化して、特に甘いものばかり偏って食べるようになる。食べられるものの区別ができず異食が見られることがある。 

•失語:前頭葉の後下方の障害が強いと、言葉がスムーズに出てこない、非流暢性失語がみられることがある。


側頭葉
•語義失語:側頭葉前方部の障害により、言葉の意味が分からない。(アルツハイマー型認知症の健忘失語の場合は、ものの名前が出てこず「あれ」「それ」が多くなるが、言葉の意味は分かっている)
posted by 御所ヶ谷HC at 13:00| Comment(0) | 認知症の症候学

9. 病型ごとのパターン

認知症診断のポイントが問診で症候をみることだとすれば、病型ごとに特徴的な人当たりのパターンを知っておくと、病態の見立てに役立ちます。

9.png

アルツハイマー型認知症:もの忘れで発症するのに対して社会性は比較的保たれるため、もの忘れを受け入れがたく、人目を気にして「取り繕い」の態度がみられます。聞かれたことを思い出せないのは不甲斐ないので、同席する家族のほうを振り返って代わりに答えてもらおうとします(振り返り行動)。取り繕いが言い訳のように聞こえて、まわりくどい印象です。

脳血管性認知症:神経活動が全般的に不活発になるので、返答に時間がかり、じれったい印象を受けます。最小限の返事しか返ってこなかったり、返事をあきらめてしまうこともありますが、考え込んでいる様子がみえていいかげんな印象は受けません。

レビー小体型認知症:幻を見たり、悪い夢を見たり、非現実的な症状が出たり消えたり動揺性もあって、本人も家族も症状に振り回されて狐につままれたような、言葉にならない困惑を示します。あまり取り繕う余裕もありません。緩慢動作、仮面様顔貌といった、パーキンソン症状の外観も重要な症候です。

前頭側頭型認知症:人格の軽薄化により、「我が道を行く」態度がみられ、質問に無関心で考え無精で、いいかげんな会話になりがちです。目についたものに注意が奪われて、上の空で会話を聞き流してしまいます。失語症を主症状とするタイプでは、社会性が保たれている傾向があります。
posted by 御所ヶ谷HC at 12:59| Comment(0) | 認知症の症候学