2014年08月23日

◎ 認知症の治療

認知症の治療は、一般的にいう「治癒」を目指すものではありませんが、そこで何もせずにあきらめてしまうということではなく、認知症の進行を抑えながら、生活の折り合いをつけながら、年の功を積み重ねていくことに意義があると言えます。
治療によって期待されるポイントについて検討してみましょう。

posted by 御所ヶ谷HC at 15:04| Comment(0) | 認知症の治療

1. 認知症の早期治療の意義

認知症の早期診断
もの忘れを年のせいとあきらめてしまうのではなく、早めに治療的介入を開始することで、認知症の進行をできるだけ抑えてその後の医療・介護の負担を軽減することができるかも知れません。

認知症の病型診断
例えば脳血管性認知症の患者さんにアルツハイマー型認知症のお薬を投与すると、興奮や怒りっぽさなど過剰賦活の副作用がみられる場合があります。レビー小体型認知症の興奮に安易に抗精神病薬を使うと、パーキンソン症状の悪化や過剰鎮静で状況が悪化するかも知れません。早い段階で認知症の病型を見定め、見通しを立てておくことは治療的にも意義があります。

周辺症状の予防
家族や隣近所との対人関係がこじれると、不適応反応としての周辺症状(興奮、妄想、不安、うつ状態など)が悪化します。認知症の症状によって不適応行動が現れているという状況を整理して理解することで、対人関係の悪化を防ぎ、周辺症状を予防することにもつながるかも知れません。

介護との連携
生活が混乱しないように、早い段階で介護サービスを導入して生活支援を行うと、その後の生活に活気が出て、認知症の進行予防にもつながります。介護認定において、認知症の症状にともなう生活の支障を余さずに評価してもらうと、要介護判定の区分が上がり、サービス利用を増やすこともできるかも知れません。また、介護サービスの活用のしかたについて相談できる窓口を拡充することにもつながります。
posted by 御所ヶ谷HC at 15:03| Comment(0) | 認知症の治療

2. 認知症診療の連携

もの忘れがみられるようになって認知症の可能性があるということは、ご本人においても受け入れがたい事態です。特に、元来お達者で、人の世話を受けるより人の世話して生きてきたような方の場合、衰えた自分が他人の介入を受け入れるという状況は不本意で、否認する気持ちが起こりがちです。
実際の診察の場面でも、「なんで私がこんなところを受診しないといけないんだ?」と憤りを露わにされる方もいらっしゃいます。認知症という不本意な理由で、無理やり連れて来られたという方には、次のような声掛けを行っています。
―――「みんな平等に歳をとり、歳をとるということは、若いころとは体力も気力も変化するということです。年齢がかさなれば、遅かれ早かれ、多かれ少なかれ、衰えの変化がみられます。変化にあわせて、生活のペースも変える必要がでてくるし、見守りやサポートを活用することも必要になってきます。認知症だから受診するのではなく、衰えの変化にあわせて生活の折り合いを付けるために、相談を重ねてきましょう」

かかりつけ医への相談
患者さんやご家族からもの忘れについての相談を受けたが、まだ認知機能低下は目立たないという場合でも、何か心配な変化の兆しがあるのではないかと考えて、認知症相談医が診療のニーズを絞り込みます。

連携のルール
かかりつけ医との長年のつながりは、生活の基盤でもあり、これまでの治療の継続を大事にします。したがって、ご紹介を受けた場合でも、認知症やそれに関連した心理行動の症状についてのみ、診療連携を行います。診断を確定するだけでよいのか、アドバイスや治療も含めて併診を継続するのがよいか、FAXの連絡事項にご記入の上ご希望をお知らせください。

必要な情報
現在服用中のお薬の内容だけでなく、これまでの治療の経緯を理解することは、認知症の診療においても重要です。簡単な内容で良いので、FAXの所定の欄にご記入下さい。また、かかりつけ医だからこそ、患者さんのこれまでの暮らしぶりや人生を客観的に把握しておられることでしょう。これまでの生活状況と比べて、年齢を重ねるとともに現れる変化が生活の支障になっていないか、小さなことでも情報をご提供頂けると助かります。
posted by 御所ヶ谷HC at 15:02| Comment(0) | 認知症の治療

3. 薬物療法

認知症の薬物療法では、中核症状をターゲットとしたお薬と、行動心理学的症候(BPSD)に対するお薬が使い分けられます。

中核症状に対する治療薬T2.png
神経伝達物質の分解を抑えたり、神経伝達の効率を高めたりすることで、神経回路の機能を維持します。神経変性過程を根本的に抑える訳ではないので、症状を緩和するための対症療法的な位置づけです。

ドネペジル(商品名 アリセプト):コリンエステラーゼ阻害薬といって、神経伝達物質の分解を抑えます。賦活効果が強いので、とにかく意欲低下を改善したい、元気づけたい時の第一選択です。覚醒作用があるため、せん妄を合併した時やレビー小体型認知症に相性が良いお薬です。もともとしっかり者の患者さんの場合、過剰賦活で気が立ったり、気持ちが空回りすることがあります。

ガランタミン(レミニール):コリンエステラーゼ阻害薬に分類されますが、アセチルコリン受容体にも作用して、セロトニンやノルアドレナリンなど、他の伝達物質の調整も行います。そのため、抗不安作用や抗うつ作用もみられ、過剰に煽り立てることが少ないやさしいお薬です。もの忘れをくよくよ悔やむ、軽度認知症の第一選択です。

リバスチグミン(リバスタッチ/イクセロン):コリンエステラーゼ阻害薬で、ドネペジルと同じような効き味ですが、「貼り薬」という点が特徴です。お薬を飲み忘れることが多い人でも、貼り薬だと目に見えて継続できているかどうか分かります。薬剤が皮膚からゆっくり吸収されて、血中濃度が安定するので、過剰興奮などの副作用が現れにくいのも利点です。

メマンチン(メマリー):他の3剤とは作用機序が異なり、神経伝達におけるノイズを抑えて、本来の信号が効率よく伝達されるように調整します。過剰な興奮を抑えるという抗精神病薬的な効き方で、怒りっぽいもの忘れに有効ですが、そのぶん眠気やふらつきといった副作用に注意が必要です。他の3剤のいずれかと、併用することができます。


BPSDに対する治療薬
抗精神病薬、気分安定薬:幻覚・妄想、攻撃的言動、興奮などを抑えるために用いられます。「抑え込む」ための薬なので、認知機能も抑え込まれてぼんやりしたり運動機能が低下したり、「両刃の剣」の側面があります。特にレビー小体型認知症ではパーキンソン症状の悪化や注意力の低下など副作用が出やすいので、注意が必要です。「抑肝散」という漢方薬が有効でかつ副作用が少ないため、広く使用されるようになりました。

抗うつ薬:抑うつ気分、意欲低下に対して用いられますが、認知症の不活発を改善する効果は乏しいようです。「SSRI」と呼ばれる種類の抗うつ薬が、前頭葉症状である「常同性」に対して有効との報告があります。

睡眠薬:睡眠覚醒リズムの障害が日中の活動性、注意集中を妨げてしまうため、昼夜のメリハリを維持するために睡眠薬も利用します。高齢者は薬物代謝が低下しており、ふらつき、転倒の危険もあるため、作用時間が短いもの、筋弛緩作用が少ないものを用います。非ベンゾジアゼピン系睡眠薬であるゾルピデム(商品名 マイスリー)、エスゾピクロン(ルネスタ)、ラメルテオン(ロゼレム)などが有用です。催眠効果のある抗精神病薬や抗うつ薬を睡眠コントロールのために利用することもあります。

このように、認知症の治療においては、薬物療法はもちろん重要ですが、効果の面でも副作用のリスクの面でも、どうしても限界があります。
posted by 御所ヶ谷HC at 15:01| Comment(0) | 認知症の治療

4. 生活支援

認知症の根本的治療法は未だなく、そもそも年齢を重ねるごとに体力や認知機能は衰えこそすれ若返るものではありません。つまり、認知症は老いの延長線上にあり、老いるということはその人の人生、生活そのものでもあります。認知症の診療においては、感染症治療や癌の外科手術のように、「病気」という「異物」を排除したり切り取ったりできるものではありません。認知症診療の目標は、「治癒」よりもむしろ、認知症の症状と折り合いをつけて、認知症と共に生きる「生活支援」だと言えます。


右の図は、T4_1.png年月とともに衰える認知機能の推移のシェーマです。正常加齢でも、高齢になれば認知機能は当然衰えます(青線)が、認知症の場合はそれがより早く現れて、急速に進行します(赤線)。治療によって、認知機能の衰えをできるだけ緩和することが目標です(黄線)。
この図をみて、みなさんはグラフのどの部分に注目しますか?


医者はついつい、T4_2.png認知機能低下の赤色の部分(右図)を見てしまいます。医者は、病気を診るものだからです。家族もまた、同じ部分を見がちです。家族は、その人の若かりし日のお達者ぶりをよく知っているからです。





治療によって、T4_3.png衰えの下げ幅ができるだけ小さくなるように働きかけますが、どれだけ小さくしても所詮マイナスだとすれば、家族にもどかしさが残ります。そして、できなくなったことに目を向けるマイナス思考は、本人にとっても不本意なものです。それが、「治癒」を目指すベクトルの行き着く先なのでしょう。



「生活支援」を重視するというのは、T4_4.png認知症になってもまだまだ保たれている部分、お達者な部分(右図緑色の部分)に働きかけるということです。それは、例え年月とともに衰えが見られたとしても、日々の生活の中でその人の人生は積み重なっていくということです。




治療によりT4_5.png認知機能低下の程度が軽減されると、その分だけ、人生の積み重ねの積み増しが得られます。生活支援はプラス思考のベクトルです。









安心して過ごせる物理的環境(居場所)とともに、社会的地位(役割)をお膳立てしてあげる必要があるかも知れません。家の中で、家事を分担するだけでも、生活の立ち位置が定まります。
進行性の症状に対しては、「脳のトレーニング」で回復することは難しいので、「できないこと」を取り戻そうとするよりは、「今できること」に励む姿勢が、達成感や役割の確保にもつながります。もの忘れの症候がある人に記憶のトレーニングを行っても、脳の変化が進行すればどんなに頑張ってもストレスになるばかりで報われません。それよりも、計算がまだ得意だったら計算のトレーニングを行うほうが、料理が得意だったら料理を分担するほうが、よっぽどプラスの刺激になります。
脳に変性があっても、認知症を発症しない人が少なからずいることが分かっています。認知症はもの忘れだけでなく、認知機能低下で生活が破綻することが発症の要件ですので、生活が混乱しないように、生活の折り合いをつけていく環境調整が、実は薬物療法よりも重要なのかも知れません。介護者の関わりによって、認知症の発症・進行を遅らせることができる、かも知れない、と期待しています。

posted by 御所ヶ谷HC at 15:00| Comment(0) | 認知症の治療